「モーニングページ」というものを、一年半くらい書いている。最初は半信半疑だったけれど、今は、私にとってなくてはならない時間になった。
「モーニングページ」とは、「ずっとやりたかったことを、やりなさい」で紹介されているノートの書き方で、毎朝3ページ手書きで考えていることを書く、というのが基本の書き方。本にはA4の紙に3ページと書いてあるけど、私はA5で書いていたり、朝書けないときは夕方や夜に書いたりと、すごくゆるくやってる。だいたい40分くらいで書く。
「ずっとやりたかったことを、やりなさい」が好きだったのでやってみたものの、最初のうちは、書く意味がわからなかったし、書くことが思いつかないのにノートを開くことがしんどかったし、手が痛いし、ノートを書くのが億劫で朝起きるのさえ面倒にもなった。
モチベーションなんてないに等しい状態でも始められた理由は、「捨てる予定だった便箋を使い切るまではやってみる」と決めたことにあった。
「捨てる予定だった便箋」というのが、大好きなゴッホの絵がデザインされていて、柄はとても好みだったのだけど……なんだかとても、におうのだった。開封したときからそうで、別の柄で二冊買っても同じようなにおいがしたので、たぶんインクのにおいだったのだと思う。開封してしばらく経てばおさまるかなと期待したものの、何ヶ月経とうと、耐え難いにおいがおさまらない。この便箋で手紙を書いて人に送るのは無理、という結論に至った。
とはいえ、せっかく買ったし、自分で使う分には問題ないし、と悶々としていたころ、モーニングページの存在を知った。書いて楽しいかどうかはわからないけど、もともと捨てるしかなかった便箋だし、書いてみて見るにたえなかったら捨てればいい。やってみる前に考え込むよりやってみてから潔く捨ててしまったほうがいい。ついでに、どこに書いても裏抜けしまくって持て余していたクリッカートもここで使おう。そう考えて、「捨てる予定だった便箋」と「持て余していたクリッカート」を使ってモーニングページを始めた。
モーニングページは、朝考えていることを吐き出すことが目的のノートなので、読み返すことを主目的としてはいない。それにしても、こんなにも「捨てる前提」で書き始める人間もいないかもしれない。とはいえ、捨てようとしていた便箋を使い切るまでモーニングページを書いてみる毎日が始まった。
しばらく書いていると、不思議と、書き始める前には想像もつかなかったところに着地したり、思いもよらない本音が出てきたりと、書くのが面白いと思えることが毎日あった。毎日発見があるので、面倒だけど今日も書こうと思えて、毎日書いた。結局、体調を崩したときでさえ布団の中で書くくらいには熱中した。旅行にも朝のホテルでモーニングページを書いた。なんなら、旅行に持って行くためには分厚いノートだと重いので、薄いノートを持って行けるように日数を計算した。
モチベーション無で始めたはずの自分がモーニングページを楽しく続けられている理由は、「読み返すつもりがないから」かもしれない。読み返さなくていいだけで、信じられないほど書くのが楽しくなった。モーニングページを通して、自分が読み手、特に自分の目を気にして文章を書いていること、そして、自分の目を気にしすぎるあまりつまらない文章になっていることに気付かされた。
あとで読み返したときにしんどくならないように、読みやすいように、今はその話じゃないから書かない……。自分しか見ないノートに書くだけで、私は私にものすごく気を遣っていた。考えてみれば、学校でとっていた授業用のノートも先生に提出しなければならなかったし、ノートが自由なものという認識が薄かったのかもしれない。
夢中になっているうちに便箋はあっという間に使い切ったし、クリッカートはすぐにインク切れになった。便箋を使い切るまでモーニングページを続けてみる、と決めていたことは、そのころ少し忘れていたと思う。深く悩まないまま、自分の部屋を見渡して便箋と同じサイズのノート、つまりA5サイズのノートを引っ張り出してきて、当たり前みたいにまた書き始めた。それから少ししたころに開催された文具女子博では、万年筆向きの紙をとじたA5のノートをたくさん買った。私がモーニングページをA5サイズで書き続けているのは、最初に書いた紙がA5だったからで、ほかに特に意味はない。
書き切った便箋は紙袋に入れたまま、あまり読み返していない。書いたその日に、どうしても覚えておきたいことはメモしておくし、「ずっとやりたかったことをやりなさい」のワークのとおり、しばらくしてから読み返したこともあるけど、自発的に読み返したくなって読んだことはない。
そのあとも何冊ものノートを経て、今は365デイズノートに、ほぼ日手帳のムーミンのカバーをかけて、お気に入りの万年筆で書いている。モーニングページを書き始めたころ、捨てる予定だった紙に書いていたとは思えない。お気に入りの道具で書きたいと思えるほど、私にとってモーニングページの時間が大切になっている。
毎日書くことが習慣になった今、「そうはいっても朝書きたい」という自分の気持ちに答えるために、早起きを心がけている。それから、久しぶりに過去のノートを読み返してみるのも面白いかもしれない、とも考えているし、今使っているインクがなくなりそうなので、次はどのインクで、どの万年筆で書くかわくわくしてもいる。あんなに後ろ向きな気持ちではじめたのに、今はもっと改善してもっと素敵な時間にしたいと思っている自分が、とても不思議だ。
一日40分、誰の目も気にせずノートの上で自由に思考する時間を、これからも大切にしたい。
